1番人気のサトノクラウンを筆頭に、リアルスティール、ドゥラメンテ、キタサンブラックまでが単勝オッズ一桁台人気だった今回の皐月賞。結果は3番人気のドゥラメンテが優勝し、サトノクラウンは6着に敗れるなど明暗が分かれたが、そこにはどんな要因があったのだろうか。ここでは上位人気4頭の皐月賞を振り返ってみる。

皐月賞の結果から見えたもの

上位馬のなかで例外となるサトノクラウンの位置取り

 今年の3歳牡馬クラシック戦線の注目ポイントのひとつが、昨年の2歳重賞の増設だ。それにより、皐月賞本番までの有力馬の手合わせが減り、能力比較が例年よりも少しむずかしくなっていたのである。そんななか、皐月賞での上位人気馬4頭のいずれかが直接対決したレースは、じつはふたつだけ。リアルスティールがドゥラメンテを半馬身退けた共同通信杯と、キタサンブラックにリアルスティールがクビ差届かなかったスプリングSだ。

 そして皐月賞では、ドゥラメンテ、リアルスティール、キタサンブラックという並びでの決着。つまり、この3戦の結果だけをみれば、3頭がそれぞれ勝利を分け合っており、じつは「三強」とも考えられるのではないか。

 一方、最重要トライアルでもある弥生賞組は、皐月賞に6頭が出走して4、5、6着どまり。しかも、1番人気6着と敗れたサトノクラウンは東京スポーツ杯2歳Sの覇者だが、そこでクビ差2着だったアヴニールマルシェが前述の共同通信杯では5着。相対的な実績でも、弥生賞組の評価は下がる。

 しかし、皐月賞のレース内容を詳細に見直すと、まったくちがう可能性も生まれてくるのだ。たとえば、道中の位置取り。一桁着順だった9頭のうち8頭までが内ラチから1~2列目を通っていたことには注目すべきだろう。

 そして、唯一の例外がサトノクラウンである。道中もふくめ、1番人気ゆえの厳しいマークを受けたことや4コーナーでの不利もあり、ずっと外々を回らされることになったのだ。

 しかも、レースタイムの1分58秒2は、ロゴタイプのレコードと0秒2差で歴代2位の速い時計。距離損が響く高速馬場だったと想定すれば、勝ち馬から0秒7差は、決定的な差ではなく、本番での巻き返しが可能な範囲内なのではないだろうか。

 ところが、さらに状況を悩ましくするのが当日の馬場だ。絶好の馬場コンディションだったのは間違いないところだが、午後からレース直前まで降りつづいた雨の影響も無視はできない。レースでも、逃げ、先行馬たちが少し内を空けて走っていたように、ラチ沿いが緩んで走りにくかったのではないだろうか。それを踏まえると、じつは、すでに序列が明確かに思える、2着リアルスティールと3着キタサンブラックの並びすらも微妙になる。そしてそれはまた、印象ほどドゥラメンテが抜けてはいない、ということだ。

 そこで、皐月賞の分析からたどり着ける結論は、四強。今年も悩ましい日本ダービーとなりそうだ。

写真と映像で振り返る!4頭のポジショニング(写真をクリックするとレースが再生されます)

サトノクラウンはワンテンポ遅れたスタート。他の3頭はスムーズに加速し、特にキタサンブラックは一旦先頭を進む


先頭をクラリティスカイに譲りキタサンブラックは2番手。リアルスティール、ドゥラメンテは馬群の内側にポジションを置く



リアルスティール

(H.Ozawa)


理想的なレース運びながら惜敗
次走はどのカードを切るか

 皐月賞は、かなり理想的なレースぶりだったように思う。好位追走から、前哨戦のスプリングSで先着を許したキタサンブラックをきっちり捉え、きれいに抜けだして後続を突き放す。多くの年ならば、勝者はこの馬だったのではないか。馬場差はあれど、中山の急坂をあんな尋常ならざる脚で猛追できた馬(ドゥラメンテ)など、過去にはほとんどいないのだから。
 もちろん結果だけみれば、早めに先頭に立ったことで少しソラを使っていたのが、ほんのわずかな瑕疵ではある。もし馬体を併せられていたら、ドゥラメンテとの着差は縮まったはずだ。
 とはいえ、それでも1馬身半の差はやはり完敗。それゆえ陣営の戦法選択が今年のダービーの大きな鍵を握りそうだ。スプリングSのように末脚のキレを活かすのか。はたまた皐月賞や、ドゥラメンテを退けた共同通信杯のように巧みな立ち回りで押し切るのか。
 差しが決まりやすい近年のダービーの傾向を考えれば、前者を選んでの逆転を狙いそうだが、安定した着順が望めるのは後者だろう。いずれにしても、脚質、戦略的な複数のカードを持っていることが、この馬の最大の武器である。

キタサンブラック

(K.Yamamoto)


実力を証明した皐月賞の結果
東京コース巧者ぶりに期待

 デビュー戦は超スローを後方からの末脚勝負で制していて、2戦目は厳しい流れを前で押し切ってのもの。つまり、5番人気でのスプリングS優勝は、一般に思われているほど展開に恵まれただけの、いわゆるフロック勝ちではない。そしてそれを証明したのが皐月賞3着だ。
 それでも本番の評価はあまり高くはならないか。なにしろ父のブラックタイドは、その弟のディープインパクトに比べてしまえば、トライアルまでの種牡馬との印象も受ける。また、母の父は短距離王として名を馳せたサクラバクシンオーだけに、距離が延びての舞台でさらなる上昇は期待しにくいかもしれない。
 ただし、東京コースでは2戦2勝。その適性の高さは魅力だ。また、前哨戦のスプリングSでの勝利もあり、皐月賞ではリアルスティールにきっちりマークされての3着。本番では、そこまで警戒はされないだろうし、さらに人気も落ちそう。
 なにより、15頭立てにとどまった皐月賞とはちがい、ダービーはフルゲートの多頭数が予想されるだけに、前にいけるのは有利だ。近年の傾向的にはダービー馬候補としては推しにくいが、人気以上には好走しそうなタイプといえるのではないだろうか。


サトノクラウン

(Y.Hatanaka)


厳しい戦いとなった皐月賞
非サンデー系としての逆転を狙う

 すべてが上手くいった感のある弥生賞にくらべ、あらゆることが悪くまわってしまったのが皐月賞だった。無敗の1番人気馬ということもあり、周囲の警戒感、プレッシャーは強く、結果として道中の位置取りやコース取り、4コーナーでの不利と、いくらでも敗因が挙げられるような厳しい戦いになってしまったのである。
 さらには、父がマイラー色のあるマルジュということで距離延長への不安や、日本競馬で頂点を獲るためには欠かせないサンデーサイレンスの血を持たないことを不安視する声もあるか。
 けれど、道悪の弥生賞を快勝してるのだからスタミナ面にはおそらく問題はないはずだ。少なくとも、その不安は高速決着だった皐月賞上位馬に関してこそ考えるべきだろう。あるいは、時計の速い馬場への対応への疑問符は、今度は逆に父のマイラー色が解消してくれる。
 さらに、サンデーサイレンス系の庭ともいえる東京スポーツ杯2歳S勝ち(父か母の父がサンデー系という馬が11連勝中だった)は、後者の不安をあっさりと一掃するはずだ。そこで、父サンデーサイレンス系が4連勝中の日本ダービーだが、逆転の余地は十分にあると判断してみたい。

ドゥラメンテ

(Y.Hamano)


あらゆる「運」を味方にしての勝利
気性の激しさをどう克服するか

 共同通信杯での2着が響き、皐月賞直前での収得賞金は1650万円。2歳重賞が増えたことで出走ボーダーが高まりそうだった今年、当初は皐月賞のゲートにすら入れないはずだった。それが、無事に出走できたのみならず、鞍上には皐月賞3勝ジョッキーのM・デムーロを迎えることもでき、結果は、相当に不利な位置取りからの完勝。一転して、主役候補となれたのは、日本ダービーを勝つためにもっとも必要といわれる「運」を持っているからかもしれない。
 ただし、すでに勝負付けが完全に済んだわけではない。たとえば皐月賞を振り返っても、パドックでのテンションの高さや、4コーナーでの騎手の制御を許さないさまは、まさに馬名の意味どおりの“荒々しさ”で、それは大観衆を集めるダービーでは明らかに不安材料だろう。
 また血統的には、母系に並ぶエアグルーヴ、ダイナカールの名前から府中2400メートルへの適性の高さが思い浮かぶが、共同通信杯の直線で差し返されたように、コース替わりが大歓迎でない可能性もありそう。エンジン性能は高いが、気性の激しさゆえの燃費の悪さをどう克服できるのか。これが三冠、さらには世界を目指すうえでの課題となる。