合田直弘　香港国際競走展望

今年の香港国際競走４レースの中で、最も固い軸馬がいると言われているのが、２４００ｍの香港ヴァーズである。レーティング的にも２番手以下の馬に５ポンド以上の差をつけて首位に立ち、欧州ブックメーカー各社が2倍を切るオッズを掲げているのは、昨年に続くこのレース連覇を狙うアイルランド調教馬のハイランドリール（牡４、父Galileo）である。7月にアスコットのキングジョージ6世＆クイーンエリザベスＳ（Ｇ１），11月にサンタアニタのブリーダーズカップターフ（Ｇ１）と、今季もこの路線における主要Ｇ１を２つ制している同馬。そのいずれもが逃げ切り勝ちであったが、一方で、逃げなくてはならない馬ではなく、行きたい馬がいれば行かせて好位で競馬が出来る自在性は大きな強みである。昨年のこのレースの勝ち馬ゆえ、馬場適性も既に実証済みで、しかも鞍上が名手Ｒ．ムーアとあれば、この馬が人気を裏切る場面はなかなかに想像しづらい。

その一方で、２番手以下は混戦だ。このレース過去10年の連対馬20頭のうち、16頭が欧州調教馬（ゴドルフィン勢を含む）であることを鑑みれば、仏国から遠征している今季のサンクルー大賞（Ｇ１）勝ち馬シルバーウェーヴ（牡４、父Silver Frost）、英国から遠征している重賞４勝馬ビッグオレンジ（せん５、父Duke Of Marmalade）らは、有力な２着候補と言えよう。中でも前者は、1番という絶好枠に恵まれただけに、ハイランドリールだけを目標にして隙の無い競馬をしそうである。

牝馬のアロウワンスを加味すれば、レーティング的に2番手に浮上するのがヌーヴォレコルト（牝５,父ハーツクライ）だ。２戦をこなしたアメリカから香港に直行という、タイトなスケジュールが懸念されたが、木曜日朝に意欲的な調教を行い、まだまだ余力を残しているところを示している。

（合田直弘＝文）

　1枠に昨年のこのレースを逃げ切ったペニアフォビア（せん５、父Dandy Man）、２枠に一昨年のこのレースを逃げ切ったエアロヴェロシティ（せん８、父Pins）が入るという、刺激的な枠順となった。おそらくは、ハナを主張するのはペニアフォビアになると思われるが、エアロヴェロシティが容赦なくつつきに行き、互いのスプリント能力をモロにぶつけあうスリリングな展開となりそうである。

予測される速い流れを味方に付けそうなのが、ラッキーバブルス（せん５、父Sebring）だ。５月に行われたチェアマンズスプリントプライズ（Ｇ１）で、豪州屈指のスプリンター・シャトークアと大接戦の末に２着となった同馬。今季初戦の香港プレミアボウル（Ｇ２）を快勝後、前走ジョッキークラブスプリント（Ｇ２）は相手を間違えた競馬で２着に敗れたが、確かな末脚を持つこの馬が、能力的にも出走14頭の中での頭１つ抜けた存在と見てよさそうである。

ここも、２番手以下は大混戦だ。昨年のこのレースの３着馬で、ラッキーバブルスを破って前哨戦のジョッキークラブスプリント（Ｇ２）を制したノットリスニントゥーミー（せん６、父Dylan Thomas）、ジョッキークラブスプリント（Ｇ２）は5着と案外な競馬だったものの、重賞初制覇となった今季初戦のナショナルデーＣ（Ｇ３）の内容が良かったアメイジングキッズ（せん５、父Falkirk）。この路線の水準が高い豪州で、いずれも前走Ｇ１を制しての参戦となるレベルデイン（牡７、父California Dane）とテイクダウン（せん４、父Stratum）。そして、日本を代表しての出走となる、高松宮記念（ＧＩ）勝ち馬ビッグアーサー（牡５、父サクラバクシンオー）、スプリンターズＳ（ＧＩ）勝ち馬レッドファルクス（牡５、父スウェプトオーヴァーボード）まで、複数の馬たちが争覇圏内にひしめきあっている。

（合田直弘＝文）

今年の香港国際競走４レースの中では、最も難解なのがここである。なにしろ、出走14頭中13頭までが、レーティング119から115までの間にひしめき合っているという、軸馬不在の大混戦模様なのだ。

最大のポイントは、「エイブルフレンド（せん７、父Shamardal）がどこまで戻っているか」にある。14／15年シーズンに香港マイル（Ｇ１）とチャンピオンズマイル（Ｇ１）のダブル制覇を果たし、香港年度代表馬の栄誉を手にした同馬。昨年のこのレースで３着に敗れた後、屈腱炎を発症して戦線を離脱。11月20日にシャティンで行われたジョッキークラブスプリント（Ｇ２）で復帰を果たし、4着と悪くない競馬を見せての参戦となっている。大一番を前に、ひと叩きだけでは物足りないという声も挙がっていたが、12月2日にシャンティンで行われたバリアトライアル（模擬レース）で抜群の動きを披露。手綱をとったＪ．モレイラから「前走時と比べて劇的に良くなっている」とのコメントが飛び出している、この馬が本調子を取り戻していれば、かつては１２５という、香港調教馬の歴代最高レーティングを持っていた馬だけに、混戦を一刀両断にする可能性を秘めている。

過去10年の連対馬20頭のうち、実に16頭が香港調教馬で、そのうち半数の8頭は前哨戦のジョッキークラブマイル（Ｇ２）で連対していた馬だから、今年の同競走の１・２馬ビューティーオンリー（せん５、父Holy Roman Emperor）、ロマンチックタッチ（せん６、父Northern Meteor）は、決してノーマークに出来ない馬たちである。

ここに、２番という好枠を引いたロゴタイプ（牡６、父ローエングリン）、ここへきての進境著しいネオリアリズム（牡５、父ネオユニヴァース）、大崩れのない安定性が魅力のサトノアラジン（牡５、父ディープインパクト）といった日本勢がどう絡むか。

（合田直弘＝文）

２番手以下に５ポンド以上の差をつける、断トツのレーティングを誇るのが、昨年に続くこのレース連覇を狙うエイシンヒカリ（牡５、父ディープインパクト）である。外枠圧倒的不利と言われるシャティンの２０００ｍコースで、11番枠から出て逃げ切った、昨年のパフォーマンスは圧巻の一言だった。今年は１番という絶好枠を引いた同馬が、昨年同様、追いかけて行った馬たちがバテてしまうという、ハイラップの逃げを敢行すると思われ、自分の競馬を貫き通すことが出来れば、連覇の道が開けるはずだ。

エイシンヒカリが能力全開の競馬をしたとして、それでもなお、これを凌駕する可能性を秘めているのがモーリス（牡５、父スクリーンヒーロー）である。前走の天皇賞・秋（ＧＩ）で見せた競馬は、２つのことを示唆していた。１つは、この馬が５歳秋を迎えて益々充実していること。そしてもう１つは、２０００ｍの方が１６００ｍよりもむしろ合っていそうなこと。シャティンの馬場適性も既に２度にわたって実証済みで、まず間違いなく良い競馬を見せてくれるはずだ。

３度目の香港遠征となるが、これまでで最も状態がよさそうなのがステファノス（牡５、父ディープインパクト）である。昨年のクイーンエリザベス２世Ｃ（ＧＩ）で２着に入り、この馬もシャティンの馬場が合うことを実証済み。日本馬による表彰台独占というのも、決して夢物語ではなさそうである。

前哨戦のジョッキークラブＣ（Ｇ２）の勝ち方が実に印象的だったのが、シークレットウェポン（せん６、父Choisir）である。あたかもサンデーサイレンス系であるかのような、鋭い切れ味を持つ馬で、エイシンヒカリが作る速い流れも、この馬に味方しそうである。日本馬の一角を崩すとしたら、この馬が最も可能性が高そうである。

（合田直弘＝文）