未来に語り継ぎたい名馬
ターフを舞う緋色の風
ダイワスカーレット
2007年 桜花賞
2004年5月13日生 牝 栗毛
父 アグネスタキオン
母 スカーレットブーケ(父 ノーザンテースト)
馬主/大城敬三氏
調教師/松田国英(栗東)
生産牧場/社台ファーム(北海道・千歳市)
通算成績/12戦8勝
主な勝ち鞍/08有馬記念(GⅠ)
07エリザベス女王杯(GⅠ)
07秋華賞(JpnⅠ)
07桜花賞(JpnⅠ)
08大阪杯(GⅡ)
07ローズS(JpnⅡ)
馬名の由来:冠名+映画「風と共に去りぬ」のヒロイン、スカーレット・オハラより
20代以下、30代が支持の中心
●先行して押し切る正攻法で牡馬を蹴散らす走りは最強(30代・男性)
●12戦12連対でGⅠ4勝のグランプリホース。もう少し評価されてもいいと思う(40代・男性)
●「これぞ人馬一体」という安藤勝己騎手との華麗で美しい逃げ切りは感動!(50代・女性)
●ウオッカとのライバル関係が最高。いつかまたあんなライバル関係を見てみたい(20代・女性)
●ウオッカとともに牝馬の固定概念を覆した(30代・男)
スタイリッシュな走りを披露した まさに「天井知らずの天才」
正直に記せば、わたしはダイワスカーレットは桜花賞に勝てないと思っていた。母系が桜花賞に運のない血統だったからだ。母のスカーレットブーケは期待された桜花賞でシスタートウショウ(ウオッカの祖母の妹)の4着に敗れた。姉のスカーレットメール(チューリップ賞2着のあと故障)もダイワルージュ(2番人気で3着)も桜花賞に届かなかった。伯母のスカーレットリボンにいたっては1番人気で12着に惨敗している。
しかしダイワスカーレットは桜花賞ではライバルとなるウオッカを完封する。さらに、オークスこそ感冒で出走できなかったが、秋には秋華賞、エリザベス女王杯を楽勝し、さすがに厳しいだろうと思われた有馬記念でも2着に踏ん張った。桜花賞に勝てないどころか、本質はマイラーに近いスピード馬だろう、というわたしの予想は粉砕された。
ダイワスカーレットはスピードですべてを凌駕していった。自分の意思で前へ前へと急ぎながらも暴走しない理性も持ち合わせていた。いったん加速したスピードは2000メートルを超えても鈍ることはなかった。牝馬でこれほどスタイリッシュな走りで勝ちきってしまう馬を見るのははじめてのことだった。
4歳のダイワスカーレットは故障が重なり3戦しかできなかった。だが、強さを示すにはそれでじゅうぶんだった。
長い写真判定の末にほんの数センチの差で2着に負けた秋の天皇賞は、応援していたウオッカの勝利に歓喜したわたしだが、感動したのはダイワスカーレットの走りだった。肉体面でも生理面でも不安定な要素が多い牝馬が長い故障休養を経て復帰し、逃げて、踏ん張り、また前に出ようとしたのだ。その姿が信じられなかった。
有馬記念は楽勝だった。2500メートルでも、万全の状態で逃げたダイワスカーレットに追いつける馬はいなかった。彼女は走るたびにさらなる強さを見せてくれる「天井知らずの天才」だった。
ところが翌年、ドバイ遠征計画も発表され、いよいよ真価発揮かと期待されたとき屈腱炎を発症し、あっけなく引退してしまう。
だから、わたしは未来の競馬ファンにダイワスカーレットという馬をどう伝えるべきか考え、迷った末にひとことだけ言うだろう。彼女のほんとうの強さはついに見られなかったと。
(文=江面弘也)