師走の中山競馬場で、幾多の好レース、名勝負が繰り広げられてきたグランプリ・有馬記念。その陰には様々なエピソードも数多くあった。
今年の大一番を前に、そんなドラマを読み返しておこう。 ※馬齢はすべて現在の表記です
近年は地方競馬から中央に移籍して話題になるのは騎手ばかりになってしまって寂しいが、かつては競馬の主役である馬が地方からやってきて、中央の大レースで活躍してくれた。
80年代のおわりに起きた“競馬ブーム”の立役者オグリキャップと、そのライバルとして戦い、三つのGⅠに勝ったイナリワンも地方競馬出身の名馬である。
岐阜県の笠松競馬場から中央にやってきたオグリキャップは3歳と5歳で有馬記念に勝っている。なかでも「感動のラストラン」として語りつがれる1990年は有馬記念史を飾る最高のシーンでもある。
一方、東京都の大井競馬場から中央入りしたイナリワンは、移籍した1989年の春にいきなり天皇賞と宝塚記念を制し、秋は不本意な敗戦がつづいていたが、最後の有馬記念に勝って年度代表馬に選ばれている。
イナリワンの優勝とオグリキャップのラストランを見比べてみると、ともに春にGⅠ(オグリキャップは安田記念)を勝っていながら、秋は天皇賞6着、ジャパンカップ11着と、まったくおなじ着順を経て有馬記念に臨み、ともに4番人気と、それまでの実績を考えれば低い評価を跳ね返しての勝利だった。
偶然ではあるが、恵まれた環境で競走馬生活を送っている中央の馬たちにはない、“打たれ強さ”とでもいうか、逆境を跳ね返す力が、地方出身の2頭にはあったのだ、と思うのは考え過ぎだろうか。
江面弘也=文
text by Koya Ezura