師走の中山競馬場で、幾多の好レース、名勝負が繰り広げられてきたグランプリ・有馬記念。その陰には様々なエピソードも数多くあった。
今年の大一番を前に、そんなドラマを読み返しておこう。 ※馬齢はすべて現在の表記です
2005年の有馬記念は、無敗の三冠制覇を達成して臨んできたディープインパクトで断然との風評だった。単勝オッズ1.3倍の1番人気と、その評価の高さは数字としても表れていた。
しかしそうした世評に一矢報いんと秘策を練っている人馬がいた。ハーツクライとクリストフ・ルメール騎手のコンビである。
ハーツクライは日本ダービー、宝塚記念、ジャパンCと、ここまでGⅠで3度の2着を経験しながらもタイトルには手が届かず、“シルバーコレクター”という有り難くない呼び名を付けられていた。そして手綱をとるルメール騎手も、2002年からJRAで騎乗するようになって以来、GⅠレースで5度も2着を記録しながら、意外なことに重賞勝利さえも無かった。
この人馬がそれまでの汚辱を濯ごうと有馬記念の舞台で繰り出した秘策とは、後方一気の追い込みという得意戦法をかなぐり捨てた先行策だった。ハーツクライはスタート直後から積極的に前へ出ると、後方待機のディープインパクトを尻目に3~4番手を進む。そして直線を迎えると、早めの仕掛けで一気に先頭へ躍り出てゴールを目指す。虚を突かれたかたちとなったディープインパクトも急追するが、ハーツクライはそれを半馬身抑え、鞍上のルメール騎手とともに念願のGⅠタイトルを奪取。結果として同馬は、ディープインパクトに先着した唯一の日本馬となった。
三好達彦=文
text by Tatsuhiko Miyoshi