師走の中山競馬場で、幾多の好レース、名勝負が繰り広げられてきたグランプリ・有馬記念。その陰には様々なエピソードも数多くあった。
今年の大一番を前に、そんなドラマを読み返しておこう。 ※馬齢はすべて現在の表記です

2006年ディープインパクト

有終の美、怪物のラストフライト

 大きな期待を背負って臨んだ凱旋門賞で失格(3位入線)の憂き目に遭ったディープインパクトだったが、帰国後のジャパンCを圧勝して名誉を回復。そして現役最後のレースとして選ばれたのが、前年、ハーツクライの秘策の前に思わぬ敗戦を喫した有馬記念だった。
 ファン投票は12万票近くを集めての1位。単勝オッズも1.2倍でダントツの1番人気に推され、舞台設定は最高のかたちで整った。
 そしてスタンドを埋め尽くしたファンの前で、ディープインパクトはこの日も「飛んだ」。いつものゆっくりとしたスタートから向正面までは後方を悠々と追走し、2周目の3コーナーから馬群の外をまくって位置を押し上げながら直線へ。鞍上に軽く仕掛けられると、逃げ込みをはかるダイワメジャーやメイショウサムソンをあっという間に飲み込んで先頭に立ち、最後は手綱を抑えられたままでゴール。それでも2着ポップロックとは3馬身もの差がついていた。口取りの際には、武豊騎手が差し出した5本指に金子真人オーナーが2本の指を足して、ディープインパクトの「七冠」制覇を表現した。
 最終レースが終了し、夜のとばりが下りた中山競馬場の本馬場では「七冠馬」の引退式が行われた。ライトに照らされて馬体を黒く輝かせる稀代の天才ランナーには、最後の雄姿を見届けたいと居残った5万人超のファンから拍手や声援が送られ、温かい祝福ムードのなか北海道へと旅立った。

三好達彦=文
text by Tatsuhiko Miyoshi