師走の中山競馬場で、幾多の好レース、名勝負が繰り広げられてきたグランプリ・有馬記念。その陰には様々なエピソードも数多くあった。
今年の大一番を前に、そんなドラマを読み返しておこう。 ※馬齢はすべて現在の表記です

1993年トウカイテイオー

惨敗から1年、同じ舞台で奇跡の復活劇

 その天才ランナーが堂々とトップでゴールを駆け抜けた時、一緒にレースを観戦していた知人が驚きとともに口にした言葉は、いまも耳の奥に残っている。
「なんて馬だ!」
 1992年の秋、ジャパンCを快勝して臨んだ有馬記念で断然の1番人気に推されながら11着に大敗したトウカイテイオーは現役を続行したが、競走生活3度目の骨折などで戦列復帰はたびたび繰り延べられた。その結果、実際にターフに戻ったのは前走からほぼ1年後、1993年の有馬記念だった。故障による長期の休養明け、しかもぶっつけ本番でのGⅠレース出走ということでさすがに高い支持は得られず、単勝オッズは9.4倍の4番人気、複勝ではもっと支持率の低い8番人気にすぎなかった。
 しかし天才は、やはり天才のままだった。レース中盤まで馬群の中団を進んだトウカイテイオーは、2周目の3コーナー付近から徐々に先団との差を詰めた。そして迎えた直線。バネの効いた独特のフットワークを繰り出してスパートすると、先に抜け出した1番人気のビワハヤヒデに襲いかかり、それを一気に交わしてゴール。1年ぶりの実戦、それも強豪が集結するグランプリレースを常識外れの勝利で飾ってみせたのである。
 前走から中363日でのGⅠレース勝ちは、休養明けでのGⅠ勝利の最長記録で、それは今も破られていない。

三好達彦=文
text by Tatsuhiko Miyoshi