日本ダービーこと東京優駿は、競馬における最高峰の戦いであり、その栄光を手にした人馬は例外なく我々に希望や感動を与えてくれる。近年の勝ち馬を振り返ってみても、そこには様々な物語が存在していた。

大接戦で23センチだけ先んじた 名手の執念と意地

ディープブリランテ

5着までが0秒2差に入る大接戦を制したのはディープブリランテだった。2着フェノーメノとはハナ差。この年になって2着2回、皐月賞も3着と悔しい思いをしてきたが、大一番で見事に雪辱を果たした。

徹底的にコミュニケーションを深化させる異例ともいえるやり方


 すべてのホースマンの目標であるダービーは、馬だけでなく「人」の戦いでもある。12年ダービーはそんな側面がむき出しのレースとなった。

 有り余るスピードと、勝負に行って前向きな気性。競走馬として天性の資質を持つディープブリランテは、しかしダービーを前に、壁にぶつかっていた。最後のひと踏ん張りのための余力を残す走りがどうしてもできず、2着や3着が続いていたのだ。

 そこへレース3週間前、主戦の岩田康誠騎手が4日間の騎乗停止処分を受けた。ならばということで、ディープブリランテと徹底的にコミュニケーションを深化させるための、文字通り付きっきりの日々が始まった。異例中の異例といえるやり方だったし、これを許した矢作芳人調教師にとっても、大きな賭けだった。

 迎えたダービー。うまく折り合い、4番手の内を進んだ人馬は、直線で弾けるように抜け出す。あとは粘るのみ。外から猛追するフェノーメノ。しかしゴールの瞬間、わずかにハナ差、23センチだけ、岩田騎手とディープブリランテの執念が上回っていた。

 ウイニングランもできず、馬上に突っ伏して泣く岩田騎手に、地鳴りのような「イワタ」コールが降り注ぐ。それは、12年ダービーを象徴するにふさわしいワンシーンだった。